司法書士 太田 徹
この記事を書いた人

(所属会)愛知県司法書士会 会員番号2133・簡裁訴訟代理等関係業務 認定番号第1801503号・一般社団法人日本財産管理協会
(経歴)20代から司法書士試験の勉強をしながら司法書士事務所で補助者業務に従事する。平成29年度に司法書士試験合格。愛知県岡崎市の司法書士法人で司法書士として4年間実務経験を積む。令和4年、すでに開業していた父の社会保険労務士事務所と合同という形で、太田合同事務所を開業。

趣味)競馬観戦(ギャンブルはしません。昔社台ファームで働いていました)、サッカー観戦(セリエA、プレミア、Jリーグが好きです)、子供と遊ぶこと(娘が2人います)

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    相続土地国庫帰属制度とは?

    昨今では、『相続した土地を手放したい』『遠方住まいで相続不動産の管理が出来ないなど』相続した土地を手放したいというニーズが高まっています。

    このような問題が増えると、放置される土地が増えていきます。
    そうなると国が問題視している「所有者不明土地」がたくさん発生することになるため、その予防策として、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。

    相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、利用することが出来る制度です。
    相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日から開始しています。

    利用するための要件は?

    ① 土地の要件
    通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地は不可

    ② 負担金等
    土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金の納付が必要

    ※その他申請時に、審査手数料(土地一筆につき1万4000円)の納付も必要(帰属政令3)
    例)建物がある土地、土壌汚染がある土地、危険な崖がある土地、他人によって使用される土地 など

    ちなみに国庫に帰属した土地は、普通財産として、国が管理・処分することになります。

    主に農用地として利用されている土地、主に森林として利用されている土地
    →農林水産大臣が管理・処分(帰属法12Ⅰ)

    それ以外の土地
    →財務大臣が管理・処分(国有財産法6)

    手続きの流れ

    ① 承認申請

    申請権者になるのは、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る) により土地を取得した者です
    ※共有地の場合は共有者全員で申請する必要あり

    ② 法務大臣(法務局)による要件審査・承認

    ・実地調査権限あり
    ・ 国有財産の管理担当部局等に調査への協力を求めることができる
    ・ 地方公共団体等に対して、情報提供を求めることができる
    ・ 国や地方公共団体に対して、承認申請があった旨を情報提供し、土地の寄附受けや地域での有効活用の機会を確保

    ③ 申請者が10年分の土地管理費相当額の負担金を納付

    ④ 国庫帰属

    利用の要件は?

    相続土地国庫帰属制度は、農地・山林についても利用可能です。
    ただし、農地・山林に限らず相続土地国庫帰属制度を利用するための、土地全般の要件がありますのでその説明
    をします。

    却下要件

    却下事由とは、その事由があれば直ちに通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要すると扱われる=制度利用のための要件を満たさないということです。

    承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない(帰属法2Ⅲ、帰属政令2)

    1 建物の存する土地
    2 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
    3 通路その他の他人による使用が予定される土地(墓地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地)が含まれる土地
    4 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
    5 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

    不承認要件

    不承認要件とは、費用・労力の過分性について個別の判断を要する=却下ほどではないが審査を要するものです。

    法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない(帰属法5Ⅰ、帰属政令4)

    1 崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
    2 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
    3 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
    4 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地(隣接所有者等によって通行が現に妨害されている土地、所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地)
    5 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地

    農地・山林の場合は?

    上記の要件を満たしていれば、農地・山林であっても相続土地国庫帰属制度は利用することが出来る訳ですが、農地・山林の場合には、上記の要件を満たしにくいと思われます。

    というのも、農地・山林の場合には、土地の性質上、上記の却下事由や不承認事由に当てはまってしまう可能性が高いためです。
    具体的には、以下の項目に関して、注意が必要です。

    却下要件5

    却下要件5では、「境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地」となっていますが、山林の場合、そもそも境界が不明ということはよくあります。
    そうなるとこの要件に当てはまってしまう恐れが大いにあります。

    不承認要件2、3

    不承認要件2では「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」不承認要件3では「除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地」
    樹木や有体物が山林また農地の場合には、どの程度まで許容されるか国次第ですが、少なくとも宅地や雑種地よりも農地や山林がこの要件に当てはまってしまう可能性高いことは事実だと思います。

    不承認要件

    不承認要件5では「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」となっていますが、この要件に関して具体的な内容も示されています。

    その中で、農地・山林の場合に当てはまりそうな事項が2つあります。

    ・土砂崩落、地割れなどに起因する災害による被害の発生防止のため、土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地(軽微なものを除く)

    ・適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が追加的に必要な森林

    ちらも農地・山林にはかなり高い割合で当てはまりそうです

    法務省が公開している相続土地国庫帰属制度についての概要説明ページを下記にリンクとして貼っておきますので、詳細を知りたい方は是非ご覧ください。

    制度の現状と司法書士太田合同事務所からのアドバイス

    相続土地国庫帰属制度は土地の種類を問わず、そもそもの利用要件が多いため、使い勝手の良さでいうと非常に微妙な制度かと思います。
    しかし、全ての土地について
    この制度が利用できないとまでは言えないと思いますので、要件に該当する土地でなおかつ、誰も引き継ぐ予定がないという条件の元であれば、有用な制度かと思います。

    農地・山林の場合には、制度利用のハードルが通常の宅地に比べて高くなると思いますが、恐らくこの制度を利用しようとする土地は、農地・山林が多いのではないかと思います。

    この制度自体は、令和5年4月27日からすでに開始しており、法務省が現状の制度利用に関する統計データを公開しています。
    これによると、令和5年11月30日現在で、申請件数が1349件で土地の地目別の内訳は、田・畑:522件、宅地:487件、山林:198件、その他:142件となっています。

    そのうち、無事帰属まで完了した件数は、48件でそのうちの地目別だと、宅地:25件、農用地:10件森林:2件、その他:11件となっています。

    まだ制度が始まったばかりのデータですので、一概には言えませんが、このデータを見る限り、農地についてはある程度帰属まで完了していることがわかります。
    逆に山林はやはり、不承認要件の可能性が高く、帰属まで行くことは難しいのかなと感じます。

    相続土地国庫帰属を利用する場合には、法務局や登記制度に精通している司法書士にご相談いただけると手続きで余計な手間や労力がかからずに済むと思いますので、是非司法書士などの法律専門職にご相談ください。

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