(所属会)愛知県司法書士会 会員番号2133・簡裁訴訟代理等関係業務 認定番号第1801503号・一般社団法人日本財産管理協会
(経歴)20代から司法書士試験の勉強をしながら司法書士事務所で補助者業務に従事する。平成29年度に司法書士試験合格。愛知県岡崎市の司法書士法人で司法書士として4年間実務経験を積む。令和4年、すでに開業していた父の社会保険労務士事務所と合同という形で、太田合同事務所を開業。
(趣味)競馬観戦(ギャンブルはしません。昔社台ファームで働いていました)、サッカー観戦(セリエA、プレミア、Jリーグが好きです)、子供と遊ぶこと(娘が2人います)
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相続放棄とは?
本題に入る前に、相続放棄とは何なのかとういお話です。
相続そうだん窓口の記事で、相続放棄について詳しく解説した記事がありますので、そちらをご覧ください。
相続放棄後の管理責任
相続放棄のことは、ある程度ご理解いただけたと思います。
では、相続放棄をした後の土地などの管理責任はいったいどうなるのでしょうか?
それについては、民法940条に定めがあります。
民法 第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
(引用元 e-GOV法令検索)
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
民法940条1項では、相続放棄した人は「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」としています。
ただし無条件に保存しなければいけない、というわけではありません。
一定の条件があるうえでの取り決めです。
その条件というのが、同じく民法940条に記載されている「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」「相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」という部分です。
裏を返せば、この条件に当てはまらない状況であれば、仮に法定相続人が相続放棄をしたとしても、その後の管理責任は負わないことになります。
これらの条件にについてもう少し詳しく見ていきましょう。
相続財産を現に占有しているとは?
まず一つ目の条件である「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」についてです。
法律上でいうところの「占有」には、「自己占有=直接占有」と「代理占有=間接占有」というものがあります。
自己占有=直接占有とは、端的に言えば、占有者本人が自ら該当する物(動産や不動産)を所持している状態のことです。
代理占有=間接占有とは、本人が代理人の占有を通じて占有権を取得するものです。
少し変な感じがするかもしれませんが、民法ではこの代理占有も認められています。
民法 第181条 占有権は、代理人によって取得することができる。
(引用元 e-GOV法令検索)
直接占有が民法第940条でいうところのの占有に当てはまることは、分かり易いかと思います。問題は、間接占有がそれに当てはまるかです。
結論から申し上げますと、間接占有であっても、民法940条でいうところの「占有」に当てはまるとしています。(法制審議会民法・不動産登記法部会第18回会議・5ページ部分)
部会資料では、以下のように記載しています。
「現に占有」とは、相続放棄をしようとする者が被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合を、本文の義務を負う場面から除外する趣旨であって、本文の適用対象が、財産の占有態様が直接占有であるか間接占有であるかによって区別されることを想定しているものではない。
観念的とは「頭の中で考えるさま」という意味合いです。
「現に占有」していることが、相続放棄をした後でも、保存義務が残る条件なわけですが、ここでいう「現に」というのは、ただ頭の中だけで、被相続人から不動産を相続したと認識しているだけで、事実行為として、占有をしていない人は、「現に占有」しているとは言えないから、保存義務はないけれど、事実として間接占有(代理人等を使って占有)をしている場合には、自分自身が直接的に占有していなくても、占有している以上、保存義務を負いますよ。ということを言っています。
つまり間接占有も民法940条でいうところの「占有」に含まれるということです。
相続人や清算人に引き渡すとは?
では、2つ目の条件である、相続人や清算人への引き渡しについてです。
民法940条の定めだと、相続放棄によって相続人になったもの又は相続財産清算人が管理できるようになるまでは、相続放棄をした人も管理を継続する義務があります。
不動産の場合には、この「管理義務」というのが、非常に厄介です。
何もない街中にある宅地等であれば、日常的に管理をしなければいけないほど、維持が難しいということはないでしょう。
しかし、田舎の山林や住宅地にあるような古い家屋の場合には、ある程度の維持管理をする必要があります。
理由は、シンプルで、維持管理が行き届いていないがゆえのリスクが伴うからです。
例えば、山林の場合、自分の所有している土地が土砂災害などで、第三者の住宅などを巻き込んだり、あるいは、道路などを封鎖してしまった場合には、土地所有者としての管理責任という問題が発生するリスクが無いとはいえません。
家屋に関しても、街中にあり古い建物であればあるほど、倒壊や敷地内に生えている植物の管理などの問題はどうしても出てきます。
弊所がある愛知県豊橋市からほど近い愛知県蒲郡市でも、2024年8月に土砂崩れによる被害が出たというニュースがありました。
下記のようなケースになることは、稀だとは思いますが、リスクとして絶対にないとは言い切れないところが、この問題の難しい部分です。
ですがここでいう管理責任とは、あくまでも民法940条の2つの条件を満たす人に発生する責任です。
ここまで読んでいただいた方であれば、お気づきだと思いますが、仮にこれらの条件を満たさない(管理責任を民法上負わない)人で、他に相続人がいない人が相続放棄をした場合には、管理責任の所在がどうなるのか?という疑問が出てくると思います。
残念ながら、改正民法においても上記ケースの場合には、責任の所在が明確になっていないのが現状です。
上記ケースにおいて、相続放棄をした土地などが土砂崩れなどにより、第三者に損害を及ぼした場合には、損害賠償責任を100%負わないとは言い切れないところがこの問題の煮え切れない部分です。
民法上、2つの条件を満たしていない人で他に相続人がいない人が、相続放棄をした土地や建物によって損害を被った人は誰に賠償請求するのでしょうか?
今後このような事案が出てきたときに、裁判所が判断をしていくことになると思いますが、責任の所在が不明確になっている以上、問題になることは間違いないと思います。
新たな管理制度について
改正民法において、新たな管理制度が出来ました。
それが所有者不明土地管理制度と管理不全土地管理制度です。
(民法264条の2から同法264条の14)
所有者不明土地管理制度については、太田合同事務所のWebサイトで解説記事を掲載していますので、そちらをご覧ください。
これらの制度に共通するのは、利害関係人から不動産所在地を管轄する地方裁判所への申立てを要し、申立ての際には、予納金を負担する必要があることです。
この制度を利用すれば管理責任の所在を明確に出来る訳ですが、制度利用のためには、予納金の支払いが必要であり、予納金の支払い義務がある制度の利用を義務付けすることは、公平性を欠くため制度利用を義務化できないという事情があります。
司法書士太田合同事務所からのアドバイス
改正民法940条によって、相続放棄した場合の土地や建物の管理責任はある程度明確になりました。
ただ改正民法においても、本文でも説明した通り、ケースによっては責任の所在が不明確なままで、にもかかわらず管理責任を負いかねないリスクがあることは変わりはありません。
相続放棄によって管理責任を民法上負わない状況になる方であっても、今後の裁判所や法務省の取り扱いを注意深く確認し、明確に相続放棄をした場合には管理責任を負わない、という取り扱いや判例などが出るまでは、なにかしら管理に関しての対策をしておくことは最低限必要かもしれません。
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